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「帰ろうか」
「うん……あ」
「どうかした?」
「教室に何か用があって戻ってきたんじゃないの?」
「あ……忘れてた」

 高山は再び自分の席に向かうと引き出しの中を探る。そして少し皺の寄ってしまったプリントを取り出す。

「帰って課題しようとしたら、なくてさ」
「一回帰ったのにわざわざ?」
「明日の朝早く来ればいいか、とか考えたけどさ。わざわざ戻ってきてよかった」
「高山くんがそう思うならそれでいいけど」

 折原は高山に戻ってきてよかった理由を訊かずに出入り口へ向かう。訊き返さなくても返ってくる答えがわかったからだ。けれど折原は高山と同じように言葉にはしなかった。
 教室の照明を消すと、二人が行く廊下を照らすのは窓から入る月明かりと、外にある電灯だけだ。それでも歩くのには充分な明るさだった。

「高山くん」
「ん?」

 昼間とは違い、静寂に包まれた夜の廊下の中で折原の声はよく響いた。折原は上着のポケットの中から封筒を取り出す。薄暗い中でははっきりとその色はわからない。けれどその封筒は折原が書いていた手紙であることはすぐにわかった。
 折原は何も言わずに高山に手紙を差し出す。高山はゆっくりと手を伸ばすとその手紙に触れる。

「どうして?」
「高山くんはこの封筒を開けないと思うから」

 手紙に触れた高山の指先はぴくりと動く。高山はその手紙を確実に掴むことはできなかった。自分が安易に受け取っていいものではない。


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