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「どうして?」
「何が?」
「どうして帰らないの?」
「俺が帰りたくないと思ったから」
「そう」

 二人はお互い視線を外さなかった。見つめ合うのではなく、睨みあうのでもなく、ただお互いを見ていた。

「折原の声、いいよな」
「声?」
「癒される」
「そう」

 折原の表情は微塵も変わらなかった。ポーカーフェイスが上手いとかではなく、表情の変え方がわからないのではないかと思うくらいに。
 高山はそう思うと折原という存在に更に興味が沸いた。

「誰宛に手紙書いていたのか訊いてもいいか?」
「誰宛だろうね」
「答えたくないってことか?」
「違うよ。誰宛でもないから」
「は?」

 折原は机の上に広げられた便箋に書かれた文字をそっと指でなぞる。折原の指は白く細長く綺麗だった。危うい、触れたら崩れてしまいそうだ。そう思いながらも高山の手は折原へ伸びる。

「私が……死んだときのための手紙を書いてるの」

 折原は静かにそう言った。高山は行き場をなくした手を握り締めると折原を見る。折原には冗談や適当なことを言った様子はなかった。

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