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俺と母の前でネズミは好き勝手いろいろなところをかじっているが、気にしなかった。ネズミのことよりも気になるのが近所の叫び声。
うるさすぎる。

「母さん、俺山腹に行ってくるよ」
「そう、気をつけて行ってくるのよ」
「うん」

俺は周に二、三回、皆が消えた山腹に足を運ぶ。あそこなら町の騒々しさも少しは小さくなるだろう。


山腹に着くと思ったとおり静かだった。俺は近くの木にもたれて目を閉じる。七月の末、暑かった。時々吹く風が心地よくて俺の眠気を誘う。




「……誰だ」

俺が夢の世界に入る寸前、人の気配がして目を開ける。そこには赤いマントを纏った男がいた。

「笛吹き男……」

夢だろうか……そこには十二年前、俺の友達を連れ去った笛吹き男が立っていた。容姿は十二年前と全く変わっていない。まあ、俺の記憶の範囲ではだけど。

しかし、なぜこの笛吹き男は俺の前に現れたのだろう。俺をじっと見てくる笛吹き男を睨む。

「そう怖い顔をするな」
「あんた、俺に何か用?」
「君はどうしてこんなところにいるんだい? 町はネズミで大騒ぎだと言うのに」
「だからだよ。うるさいからここに来た」
「そうかい。君はよくここに来ているね」
「ああ、あんたが俺を置いていくからだ」

俺は皮肉を吐く。笛吹き男は愉快そうに笑っている。

「何だよ」
「いや……君も連れて行って欲しかったのかい?」
「一人置いていかれるぐらいなら」
「悪いことをしたね、でも僕にも考えがあったからだよ」
「は?」
「君を残しておいてある仕事をしてもらおうと思ってね」
「……」

何なんだ。笛吹き男は俺に何をさせようとしている。仕事をさせるために俺を残した?訳がわからない。

「……仕事って?」
「笛を……笛を吹いてもらおうと思ってね」
「は? 何で俺なんかに……あんたが吹けばいいだろ」
「それじゃ、君を残した意味がないだろ?」
「俺は笛を吹けない……吹く笛もない。十二年前、あんたが笛を吹いて子供を連れ去った後町から笛は消えたよ」
「そうかい。でも笛ならここにある」

笛吹き男は俺の前に長い縦笛を差し出した。

「俺に何をさせようとしている」
「十二年前のことで町民たちが心を改めたと思っているかい?」
「皆反省していた。俺はこの目で見てきたんだ」
「上辺だけさ。心の中じゃそんなに反省してないだろう。ただ、子供たちを連れ去った僕のことを恨んでいるだけ」

俺は前に笛吹き男が言ったことと同じことを考えたことがあるので反論はしなかった。考えてなかったとしても反論する気はないが。

「……ネズミを送り込んだ犯人はあんた?」
「犯人とは人聞きの悪い。送り込んだというよりも返したといったほうがいい」
「あんたは何をしようとしている」
「十二年前の悲劇を再び……ってところかな?」

笛吹き男は口の両端を上げて言った。十二年前の悲劇を再び……また子供たちを町から連れ去ろうとするのか?

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