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「おはようございます」
「おはよう。今日は仕事にならないよ」

店長はため息をつき、ショーウィンドウの方を見る。俺もその視線を追って見てみる。ネズミが並んだパンをかじっている。もう売り物にはならないだろう。店内が少し荒れているところを見ると店長は退治しようとしたらしい。

「どの家もネズミの異常発生に大騒ぎですよ」
「そうだな、ラナの家にもネズミが出たのかい?」
「はい、服に穴を開けられてショック受けましたよ」
「町中大騒ぎだと言うのにラナは落ち着いているな」
「大騒ぎしたところでネズミがいなくなるわけでもないし」
「確かに」
「店内のネズミ退治でもしますか?」
「無駄だろう。退治したとしてもまた次が来る。十二年前もそうだったんだからな」
「そうですね」

きっと大人たちは十二年前のことをネズミの出現により鮮明に思い出しているだろう。十二年前の悲劇……町から子供たちを連れ去った笛吹き男の顔。

「ラナ、当分仕事になりそうにないから、休みをとってもいいよ」
「大丈夫ですか? ネズミ対策とか手伝いますけど」
「いいよ。ラナは家に帰ってお袋さんの手伝いをしな」
「はい。じゃ、失礼します。あ、俺また様子見に来ますからね」
「ん、ありがとう」

俺は頭を下げてから店を出た。ネズミが道を駆けている。周りの家からは叫び声や怒りに満ちた声が聞こえる。

家に帰ると母は椅子に腰掛けていた。母の周りにネズミが数匹いた。

「母さん、何してるの?」
「あら、仕事は?」
「店にもネズミが発生して仕事にならないから帰ってもいいって」
「そうなの」
「母さんはどうしたの?」
「無駄な体力を使うのは好まないのよ」
「なるほど」

俺が仕事場に行っている間にあれこれしたらしいが、どれも効果がなかったらしい。母は無駄な体力の消耗だと判断し、ネズミ退治をやめたのだ。俺はそれが賢明な判断だと思う。町の人は頑張ってネズミ退治をするが、どれも効果がないことばかり。
ネズミを退治できないなら共存することでも考えた方が楽だろうな。まあ、ネズミと共存なんて考えるヤツなんて俺ぐらいしかいないだろうけど。

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