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「藍ちゃん」
「何?」
「お姉ちゃんと話しするときは目を見て話しましょう」
「……」

ここで『人』とではなく『お姉ちゃん』というところが姉だと思う。私は姉が部屋に入って、ベッドに座り抱き枕を抱きしめるところまでしか見ず、後はずっと机に向かっていた。姉はそれが気に入らないらしく言葉にしたようだ。

「藍ちゃーん」
「わかったから……変な声だすな!」
「わーい」

私は課題をやり終え、姉の方を見る。姉の目は赤く腫れていた。部屋に入ったとき姉の顔を見ていなかったから、気付かなかった。姉はどこかで泣いて帰ってきたのだ。何があったのかはわからない……多分、恋人と何かあったのだろう。それくらいじゃないと姉は泣かない。

「目が赤いよ」
「あー、今日ずっとパソコンに向かってたからかな?」

すぐに嘘だとわかる。姉は人と会話するとき絶対に視線を外さない。だけど、嘘をつくときだけは視線を外すのだ。

「姉ちゃん、ばればれだよ」

私は姉を真っ直ぐ見る。姉はばつが悪いなあ、という曖昧な笑顔を見せた。そして姉の瞳から涙が零れる。

「姉ちゃん……」
「あいつが言ったのよ! 運命だって !俺とおまえが出会うのは運命だったって! 今思えばバカらしいわ、そんな言葉信じるなんて……」

姉と姉の恋人が喧嘩をしたか、別れたかはわかった。だけど、その理由はわからない。姉に訊く気はないので姉が言うのを待つことにする。姉はぼろぼろと私の抱き枕に涙を零して水玉模様を見事に作り上げていた。

「姉ちゃん、涙を零すのは構わないけど、鼻水だけはつけないでね」
「……」

姉は一度私の顔を見てから、抱き枕を放した。私は床に放っていたティッシュ箱を姉に渡す。姉は豪快な音を立てて鼻をかみ、数枚ティッシュ箱から取り出して溢れる涙を拭いていた。
無駄なことだとわかっていたが、姉のその行動を止めなかった。ベッドの横にゴミ箱を置けば、姉はその中へ乱暴に使ったティッシュを投げ込んだ。まるで鬱憤を晴らすように。


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