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「日誌、出して帰ろうか」

 詠次は朝香の手元から日誌を取ると適当に空欄を埋めていく。朝香は黙って詠次の手元を見つめていた。

「変な話して悪かったな」

 日誌を閉じると詠次が静かな声で言う。

「信じるか信じないかは私次第なんでしょ? 私は死ぬなんて信じない」
「……そっか」

 詠次は寂しそうに微笑むと日誌とかばんを持って席を立ち上がる。朝香も倣ってかばんを持って立ち上がった。朝香は黙って詠次の斜め後ろを歩いた。詠次も何も言わない。
 二人の足音が嫌に響いた。担任の教師に日誌を提出すると昇降口に向かった。

「なあ、片岡は死ぬ前にやっておきたいこととかあるか?」
「え?」
「死ぬときに後悔を減らすために」
「いつもどおりに生きるわ。死ぬときまで」

 朝香は力強く笑った。上手く笑えているかはわからない。けれど詠次が持つ不安を打ち消してあげたいと思った。

「いつもどおりか……」
「そう、いつもどおりよ。じゃあ、また明日ね」

 正門を出ると二人の家路は反対方向だった。朝香は明るい声で詠次に言うと背中を向けて歩き出した。

「気をつけて」

 朝香に聞こえるように少し大きな声で言うと詠次も自分の家路に就いた。



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