(5/11)

薔薇を抱えた私は静かに閉められるドアを見つめた。杉本も失恋をしていたのか。誰に対してか知らない。アキ姉ではないのは確かだ。杉本は私に気がつかせなかった。ずっと傍にいたはずなのに気づかなかった。

「失恋よりもショックかもしれない」

真紅の薔薇を見つめる。上品で落ち着いた紅色。杉本が私に似合うと言った色。花びらに触れる。優しい肌触り。よく薔薇の匂いだとか聞くけれど、この薔薇は植物独特の匂いしかしない。視覚、触覚、嗅覚と私は集中して薔薇の花束を観察する。そうでもして気を紛らわしたかった。
杉本が坊主にするまで私は杉本のことをわかっているつもりだった。坊主にした理由がわからなくて、そしてそれ以外のことも少しずつわからなくなっていった。少しずつ精神的な距離が開いて、いつの間にか物理的な距離も開いていた。

私は閉ざされたドアに花束を叩きつける。花束はその形を保ったまま冷たいコンクリートの上に落ちる。
意外と丈夫だ。


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