(2/2) ソレが一瞬、足の力が抜け雨の流れる道路へ倒れる。僕の足は無意識のうちにソレに向かっていた。ソレも再び立ち上がり、一歩一歩確実に僕に向かって足を踏み出していた。 そして、すっかり冷たくなった身体を僕の足に摺り寄せる。ソレの身体についていた泥が僕の足を汚してしまった。僕は気にならなかった。 僕は傘が落ちないように肩にかけ、ソレの前にしゃがんだ。両手でそっとソレに触れる。ソレはピクッと身体を震わせてから、すぐに僕の手にじゃれてきた。僕はソレを優しく抱き上げ、Tシャツの裾で濡れた身体を少し拭いてやる。 ソレは小さな声で鳴いて、僕を見上げた。僕を真っ直ぐ見つめるその瞳は美しい琥珀色だった。 僕は買い物袋と琥珀色の瞳のソレを持って、家へ帰った。 「ただいま……」 「おかえりなさい」 母は僕が濡れていることを想定して、タオルを用意して待っていてくれた。僕はそうっと母の顔を見上げる。そして僕の腕の中でソレが鳴いた。 「あら、まあまあ」 母は僕の腕の中のソレを見つめた。ソレも母を見つめ返した。 「泥だらけね、お風呂で洗ってらっしゃい」 母は心配そうな僕の顔を見て、ふっと微笑んで言った。僕は母の用意してくれていたタオルで濡れた足を拭き、風呂場に入った。 僕はソレを洗面台の中に入れた。僕は浴室に入って足と手についた汚れを落とした。それから洗面台の前に立ち、栓をして、蛇口を回し微温湯を溜める。 ソレは一瞬びくりとして、洗面台から飛び出ようとしたが僕の手はそれを許さなかった。僕は左手でソレの体を捕まえて、右手ではソレに優しくお湯をかけてやった。ソレも慣れてきたのか抵抗しなくなった。 溜めていた水は直ぐに茶色く濁った。一度栓を抜き、新しくお湯を入れる。それを繰り返しているうちにソレの本当の姿が現れてきた。現れたのは白くて美しい姿だった。 初めて会ったときとの印象が全く違った。 僕はソレの体を乾いたタオルで優しく拭いてやった。それから床に降ろすと、全身を伸ばして、満足気に鳴いた。 僕は汚れた服を着替え、ソレを抱えて母のいる居間へ向かう。 「きれいになったわね」 母はソレと僕を見て、満足気に頷いた。僕はソレを足元に降ろす。ソレは僕を一度見上げ、ゆっくりと歩き出した。 「母さん……」 「ねえ、この子の名前何にするの?」 僕は少し驚いて母を見る。母はソレを抱き上げて優しく撫でていた。 「いいの?」 「ちゃんと世話が出来るかしら?」 「うん、約束する」 僕はソレを見た。名前は何にしよう。 白いから…… 「白玉……」 僕がそう呟くとソレは嬉しそうに鳴いた。 「シラタマ? いいじゃない。かわいいわ」 「白玉、おいで」 名前を呼ぶと、白玉は僕のところにすぐに来る。 「白玉、今日からここがおまえの家だよ」 そしてまた、白玉は嬉しそうに鳴いた。 end
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