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ソレが一瞬、足の力が抜け雨の流れる道路へ倒れる。僕の足は無意識のうちにソレに向かっていた。ソレも再び立ち上がり、一歩一歩確実に僕に向かって足を踏み出していた。
そして、すっかり冷たくなった身体を僕の足に摺り寄せる。ソレの身体についていた泥が僕の足を汚してしまった。僕は気にならなかった。

僕は傘が落ちないように肩にかけ、ソレの前にしゃがんだ。両手でそっとソレに触れる。ソレはピクッと身体を震わせてから、すぐに僕の手にじゃれてきた。僕はソレを優しく抱き上げ、Tシャツの裾で濡れた身体を少し拭いてやる。
ソレは小さな声で鳴いて、僕を見上げた。僕を真っ直ぐ見つめるその瞳は美しい琥珀色だった。


僕は買い物袋と琥珀色の瞳のソレを持って、家へ帰った。

「ただいま……」
「おかえりなさい」

母は僕が濡れていることを想定して、タオルを用意して待っていてくれた。僕はそうっと母の顔を見上げる。そして僕の腕の中でソレが鳴いた。

「あら、まあまあ」

母は僕の腕の中のソレを見つめた。ソレも母を見つめ返した。

「泥だらけね、お風呂で洗ってらっしゃい」

母は心配そうな僕の顔を見て、ふっと微笑んで言った。僕は母の用意してくれていたタオルで濡れた足を拭き、風呂場に入った。

僕はソレを洗面台の中に入れた。僕は浴室に入って足と手についた汚れを落とした。それから洗面台の前に立ち、栓をして、蛇口を回し微温湯を溜める。
ソレは一瞬びくりとして、洗面台から飛び出ようとしたが僕の手はそれを許さなかった。僕は左手でソレの体を捕まえて、右手ではソレに優しくお湯をかけてやった。ソレも慣れてきたのか抵抗しなくなった。

溜めていた水は直ぐに茶色く濁った。一度栓を抜き、新しくお湯を入れる。それを繰り返しているうちにソレの本当の姿が現れてきた。現れたのは白くて美しい姿だった。
初めて会ったときとの印象が全く違った。
僕はソレの体を乾いたタオルで優しく拭いてやった。それから床に降ろすと、全身を伸ばして、満足気に鳴いた。
僕は汚れた服を着替え、ソレを抱えて母のいる居間へ向かう。


「きれいになったわね」

母はソレと僕を見て、満足気に頷いた。僕はソレを足元に降ろす。ソレは僕を一度見上げ、ゆっくりと歩き出した。

「母さん……」
「ねえ、この子の名前何にするの?」

僕は少し驚いて母を見る。母はソレを抱き上げて優しく撫でていた。

「いいの?」
「ちゃんと世話が出来るかしら?」
「うん、約束する」

僕はソレを見た。名前は何にしよう。
白いから……

「白玉……」

僕がそう呟くとソレは嬉しそうに鳴いた。

「シラタマ? いいじゃない。かわいいわ」
「白玉、おいで」

名前を呼ぶと、白玉は僕のところにすぐに来る。

「白玉、今日からここがおまえの家だよ」

そしてまた、白玉は嬉しそうに鳴いた。



end


*コメント*
「ソレとボク」の別バージョン。
これも高校生のときのものですね。
たぶん、主人公は同じ……はず。
主人公には名前もないし、顔もない。たぶん、高校生。
のーん、って感じで書いたかもしれない。
文芸部内の批評会で白玉は猫か犬かって議論があった気もする。

2010/10/28
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