(1/2)


僕とソレが出会ったのは、夏へ向かう梅雨の時期だった。


ソレとボク2


その日も連日続く豪雨で、湿度は高くじめじめしていた。学校は休みでとくにやることがなく、僕はベッドの上でぼんやりしていた。
耳に入るのはザーッと雨が降る音と、下の階で母が掃除機をかける音だけだった。隣の部屋に兄がいるはずだが、まだ起きていないらしく物音はしない。
いつの間にか僕は雨音だけに集中し始めていた。雨音は心地がよい。強くなったり弱くなったり、まるで音楽を奏でているようだ。梅雨の季節は湿気が多くて鬱陶しいと言う人もいるが、僕は鬱陶しいなどと思ったことはない。
僕は雨の日が好きだ。

ぼうっと雨音を聞いているうちに昼飯の時間が近くなっていた。コンコンと小さく僕の部屋のドアをノックし、母がドアを開けて顔を出す。

「お醤油を買ってきてくれないかしら?」
「うん、いいよ」
「ありがとう。お釣りでお菓子でも買っていいわよ」
「うん」

母は車の免許を持っていない。家の中で持っているのは父と兄だけだ。父は仕事だし、兄はまだ寝ている。普段、買い物は自転車で出かける母にとって梅雨の季節は困るだろう。

僕は透明のビニール傘を持って出発した。服装は部屋にいたときのままで、寝転んでいたせいか、Tシャツに少し皺がよっていた。
雨が流れる道路を歩くと、底が薄いサンダルを履いていたのですぐに足は水浸しになる。歩くたびにぺチャぺチャという音が立つ。足とサンダルの間に水が入って気持ち悪い。今、長いズボンをはいていたらきっと水が染み込んで重くなっていただろう。半ズボンで出てきて正解だったと思う。

僕はさっさと用事を済ませ、店を後にした。特に欲しいお菓子がなかったので店の外にある自動販売機でジュースを買う。
そして僕は来た道を買い物袋片手に戻って行った。
僕は雨の日は好きだが、少し嫌な点があった。道を歩いていると、横を通った車に水をかけられる点だ。幸い今日はまだかけられていない。
2、3日前に車がはねた水をかぶり、買ったばかりのTシャツが汚れてしまった。今でもそのときの苛立ちが思い出される。

「やだ、汚あ!」
「近寄らないで」

前方で僕と同い年ぐらいの女の子たちが何かを避けていた。最初はゴミかと思ったが、どうやら違うらしい。ちゃんと意識をもって動いている。
そして、ソレが何かと理解する。

雨はソレに強く当たった。まだ、小さいソレに容赦なく雨は降り注いだ。ソレの姿は泥だらけで、本当の姿が想像もつかなかった。ソレは歩いてきた人間に助けを求めて足にすがろうとするが、人間は嫌な顔をしてソレを避ける。そして、足早に去っていく。
ソレの小さな泣き声は雨音にかき消される。僕はソレの姿を少し離れたところで見ていた。

ソレの助けを無視する人間は何て残酷なのだろう。助けを求めて、一生懸命鳴くソレの姿は何て命を感じさせるだろうか。
そして、ソレの瞳は僕を捉えた。ソレは小さな石に躓きながらも、僕に向かって歩いてくる。

雨は一層酷くなる。


次へ→

mainへ