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ばか


「私、どこで失くしたのかな?」

彼女は小さな声で僕に訊いた。
彼女は失せ物ばかりしていた。傘をどこかに置き忘れたり、お気に入りのシャープペンシルをどこにやったかわからなくなったり、靴下の片方を失くしたり、僕があげた髪留めをどこかにやったり……
例を挙げればいくらでも出てくるほど彼女は失せ物の天才だった。

「何を?」

僕は彼女に訊き返す。
彼女の失くした水玉の傘も桜色のシャープペンシルも真っ白な靴下も蝶の形をした髪留めも……全部、僕が見つけてあげた。

彼女は僕のことを失せ物探しの天才だと言った。僕はただ、失せ物に出会うことが多かっただけ。その失せ物の中のほとんどが彼女のものだっただけ。

最初は彼女の生徒手帳を届けた。それから、失せ物を拾っては失せ物をした彼女に遭遇した。
誰のものかわからずに部室のダンボール箱に入れていた水色のハンカチも小花柄のシュシュも淡い桃色のラブレターも……全部、彼女のものだった。いつの間にか僕は彼女の失せ物を探す、というよりも拾う天才になっていた。

今回、彼女は何を失くしたのだろうか?

「あなたへの気持ち」
「は?」

ついに彼女は気持ちまでも失くしてしまったのか。しかもそれは僕への気持ち。
僕はそれをどうやって拾えばいいんだ。物理的に拾えるものなんかじゃない。

「本当、どこにやったのかなあ」

彼女は僕の顔を覗き込む。そして、なぜか僕のポケットの中も覗いた。そんなところを探しても見つかるはずはない。僕への気持ちを失くしたと言われたら、僕はどうすればいいのだろうか。

わからない。ただショックだった。

僕は彼女を好きなのに。失せ物ばかりする彼女に興味をもって、いつしかそれは好意に変わって、それが恋愛感情だと気がつくのには時間はかからなかった。それなのに彼女は僕への気持ちを失くしたと平気で言う。
僕はどうしようもなくなって、彼女の頬に触れて、それから彼女の柔らかい癖のある髪に触れた。


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